リーガルテックとAIに関する原則

【前文】
一般社団法人AIリーガルテック協会(以下「当協会」という。)は、当協会の会員であるリーガルテックサービス(AI・テクノロジーを活用し、主として法律・法務に関係する業務を支援するソフトウェアを提供するサービスをいう。以下同じ。)の提供者(以下「サービス提供者」という。)が、当然に共有すべき指針として、本原則を制定する。なお、当協会は、本原則について、技術やサービス、社会等の発展に即して適時に見直しを行う。
 
【原則1 コンプライアンス原則】
サービス提供者は、弁護士法72条をはじめ、あらゆる法令を遵守し、また関連する重要なソフトローにも対応する。
<考え方>
 利用者から信頼されるためには、サービス提供者としてコンプライアンスを実現する必要がある。
 コンプライアンスの対象となる法令は、適用されるあらゆる法令である。また、コンプライアンスの実質的な趣旨目的を実現する上では、実務上重要なソフトローにも対応する必要がある。
 ここで、リーガルテックサービスは法律と密接に関係する業務を取り扱うことから、弁護士法に関するコンプライアンスが特に重要となる。その実現にあたっては、既に公表された、法務省による「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」[1]等、弁護士法に関する公的な解釈(今後公表されるものも含む)で示された考え方に準拠してリーガルテックサービスを展開する必要がある。
[1] 法務省大臣官房司法法制部「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」令和5年8月(https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf
 
 
【原則2 Lawyer-in-the-loop原則】
サービス提供者は、リーガルテックサービスの開発の過程に、弁護士等の法律有資格者を適切に関与させることにより信頼性を確保する。
<考え方>
 リーガルテックサービスの利用者の信頼を確保するためには、リーガルテックサービスにおいて適法かつ適切な内容を提供する必要がある。そして、リーガルテックサービスは法律と密接に関係する業務を対象としていることから、リーガルテックサービスには、法律に関する高度の専門性が要求される。
 だからこそ、サービス提供者が、リーガルテックサービスの開発過程において、弁護士等の法律有資格者を適切な方法で関与させ、それにより、利用者の信頼を確保することが重要である[2]。
[2]なお、AIを適切に取り扱う上でHuman-in-the-loop原則が提唱されている。人間が一切関与せず、AIのみによって処理等が行われることで、AIのリスクが発現し、利用者等に損害を及ぼす可能性があることから、AIをどのように利用するかの設計を含め、AIを利用したシステムのどこかに人間を関与させ、判断や制御をさせることが重要とされている。そこで、リーガルテックについては、専門性を持った法律家の関与が求められるという旨の指摘がなされている(小塚荘一郎「AIを用いたリーガルテックと契約法務」学習院法学会雑誌59巻1号244頁(2023))。このような観点をリーガルテックサービスについて敷衍したものが、原則2である。
 
 
【原則3 データ保護原則】
サービス提供者は、リーガルテックサービスの設計、開発及び提供にあたり、関連法令及び利用者と締結した契約に基づき、データの適正な取り扱いを実現する。
<考え方>
 適切なデータの利活用は、リーガルテックサービスの利便性を増進する。その一方で、もしデータが不適切に取り扱われれば、企業の戦略に関わる情報やレピュテーションに関わる情報等の対外秘の情報について、漏洩や無許可利用等の懸念が生じ得る。また、それによる利用者等における戦略や競争優位性に対する悪影響も生じ得ることになる。そこで、データの適正な取り扱いが重要となる。  リーガルテックサービスについて、利用者の安全・安心を担保し信頼を獲得するという観点から、その設計、開発及び提供において、利用者のデータを用いる場合には、関連法令及び利用者と締結した契約に基づき、データの適正な取り扱いを実現することが重要である。
 
 
【原則4 サービス理解増進原則】
サービス提供者は、リーガルテックサービスの利用者が、そのサービスの利点と制約を含む特性を踏まえ適切に利用できるよう、利用者に対する理解増進の機会を提供する。
<考え方>  リーガルテックサービスは、法律・法務に関係する業務を効率化・高度化するものである。しかし、決して法律・法務に関係する業務に携わる人間の役割をすべて代替するものではない。特に法務においては情報の正確性が重要である。そのため、情報の確認が必要な場合の対応など、個別具体的な事情を踏まえた契約対応は、引き続き人間の手に残る。また、ビジネスの文脈における判断は、法律に限らず、さまざまな情報をふまえて、さまざまな観点から総合的に行われるのだから、そうした判断はなお、人間により行われなければならない。  また、リーガルテックサービスはその時々の最新のAI・テクノロジーを活用することから、かかるAI・テクノロジーの特徴を、制約を含めて有している。  利用者の便益が最大化されるためには、このようなリーガルテックサービスの特性(利点と制約)を踏まえた適切な利用が促進されなければならない。  そこで、サービス提供者は、リーガルテックサービスのこのような特性について利用者とコミュニケーションを行い、利用者による適切な利用を確保するように理解増進を図ることが重要である。
 
                                         以上