第3回 イーロンマスク氏の「Neuralink」等で注目されるブレインテック・Internet of Brainsと法

イーロンマスク氏が立ち上げたブレインテック企業「Neuralink」の治験申請を米国FDAが一度は拒絶したものの、その後認められたとアナウンスされていること等が話題になっているところ、現在、脳信号情報を利用した様々な研究が進んでいる。
筆者も2021年には『次世代医療AI – 生体信号を介した人とAIの融合 – (計測・制御セレクションシリーズ 1)』を共著して脳信号を含む生体信号をAIで処理する場合の法的問題について検討したところである。そして、「ムーンショット目標1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」の「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」(金井チーム)はInternet of brains(IoB、https://brains.link/)として脳がインターネットに接続された社会の実現に向けた研究を行っているところ、筆者も金井チーム傘下でIoBのELSIの問題を研究する駒村圭吾先生のチームに参加させて頂いている(本研究は、JST、ムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2012の支援を受けたものである。)。
脳をインターネットに接続する、というと非常に突拍子もない話のように聞こえるかもしれない。確かに、脳情報を読み取り、脳に情報を提供するデバイス(脳とコンピュータ等をつなぐインタフェースとしてBrain Machine Interface, BMIと呼ばれることがある。)は、伝統的には頭蓋骨を開けて脳に直接電極を埋め込むことが必要であり、このような高度に侵襲的なデバイスを利用するのは、例えば、重病で意思疎通のため直接脳情報を読み取る必要があるといった高度の必要性がある場合に限られてきていた。しかし、近時ではカチューシャやヘッドホンのようなものを装着するだけで大まかな脳波を読み取り、それに基づき大まかに本人の意向を実現する(例えば、運動制御に関する電位を大まかに読み取り、アバターを前に進める)ことはできるようになっており、同プロジェクトでもブレインピックと称して、脳波でアバターを操作する大会を主催する等、ブレインテックは意外と身近になっている(この点について法律関係者向けにコンパクトにまとめたものとして駒村圭吾編『Liberty2.0』151頁以下を参照のこと。)。
そして、駒村圭吾先生のチームでは、そのようなInternet of brainsの社会実装に伴う法、倫理及び社会的影響の問題であるELSI問題の検討が進んでおり、既に2022年度は法学セミナーでブレインテックの研究者に最新状況をお聞きし、法学者・法律家で座談会を行う連載(Law of IoB――インターネット・オブ・ブレインズの法)を継続してきた。2023年度は事例研究編として、同年3月10日には、筆者が個人情報・プライバシーに関するコメントを担当した「出力型BMIによるドローン・レース」が4月号に掲載され、同年4月10日にはその事案に関する座談会が5月号に掲載された。また、同年5月10日には、人工神経接続手術による運動機能再建(脊髄損傷等で四肢が動かない患者について、損傷部分をバイパスして脳信号を伝えることで運動機能を回復するもの)が6月号に掲載され、同年6月10日には、筆者もコメントを行った座談会が7月号に掲載される。
ここで検討すべきIoBに関するELSI問題は幅広いものの、取り扱う情報が脳情報であることが他の情報と比較してセンシティブさ等にどのような相違を生じさせるのか、洗脳や内心の盗取等の新たなリスクに対する法的対応、自由意思に関する議論等の過去の脳科学的知見を前提とした議論が最新の脳科学的知見を前提とすると変容を余儀なくされるのではないか等、様々な興味深く、また社会実装の上では重要な問題が目白押しである。このような問題についても研究と発信を引き続き続けていきたい。
 

 
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