第8回 HRテクノロジー時代の人事データ保護法入門
AI等を利用してますます高度なデータ分析が可能となってきている。そのようなデータ分析の対象としては人事データ等の労働者のデータも例外ではない。このような人事データ分析技術その他テクノロジーが人事分野において応用されており、これはHRテクノロジーやHRテックと呼ばれる。HRテックは、例えば、エントリーシート分析、採用面接動画分析、ハイパフォーマーモデル作成、人事評価、人事異動、そして場合によっては懲戒処分や解雇にも利用され得る。
このようなHRテクノロジーの隆盛を背景として、どのように労働者のデータ(人事データ)を保護していくか、という問題意識を出発点として、2019年に当職は、弘文堂から『AI・HRテック対応人事労務情報管理の法律実務』を刊行し、当時の議論をまとめたところである。
また、当職は、一般社団法人ピープルアナリティクス &HR テクノロジー協会による、「人事データ利活用原則」の策定にも関与させて頂いた。
そして、その後も、人事データ保護の問題が重要性を増していることを踏まえ、この度山本龍彦慶應義塾大学教授と大島義則弁護士・専修大学教授を編著者、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会を編者として勁草書房から『人事データ保護法入門』が刊行されることになり、当職も共著させて頂くことになった。
同書は、採用、モニタリング、人事評価、配置、健康情報、退職、国際的人事データ保護という各分野について包括的に議論しており、この分野の論点を理解する上で役に立つものと考えている。
もっとも、HRテックを含む動きが速い分野における将来予測は容易ではない。当職は『AI・HRテック対応人事労務情報管理の法律実務』で、採用は採用の自由があることから、比較的HRテクノロジーが適用しやすいと述べたところ、同書刊行直後にいわゆるリクナビ事件が発生し、当職も対応した。同書の上記の記載の趣旨は、人事権の濫用等として違法とされる可能性の高低という意味において、採用であれば労働法上のリスクは低いということであり、採用の曲面へのHRテックの利用であれば個人情報保護法の問題がないという趣旨ではなかった。しかし、それでも、将来予測の難しさを実感したところである。
『人事データ保護法入門』についても、将来的にはその記載がアウトオブデートになってしまう可能性は否定できないだろう。当職としては引き続き実務と理論の架橋を継続し、改訂等の方法で最新情報を提供していきたいと考えている。
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