第6回 中国情報法の日本法との相違点と参照可能性

筆者は2020年に中国北京大学法学院で法学博士の学位を授与された後、例えば中国個人情報等の中国情報法、について実務と理論の架橋を図っている。昨年は石本茂彦=松尾剛行=森脇章共編著『中国デジタル戦略と法―中国情報法の現在地とデジタル社会のゆくえ』(弘文堂、2022年)を上梓させて頂いた。
なぜ筆者が中国情報法に注目しているかというと、中国情報法が日本の情報法理論及び実務に対しても一定の参照可能性があると考えるからである。とはいえ、注意すべきことは、条文の表面上の類似性等を簡単に比較するだけでは有意義な示唆を得ることができないということである。
例えば、中国個人情報保護法(条文仮訳)においては、一見GDPRの直訳ではないか、と思うような規定が散りばめられている。しかし、それは決して中国がGDPRの基礎となった個人データに関する基本思想、とりわけ個人データに関する本人(data subject)の権利が政府をも拘束する、という考え方を共有しているというものではない。むしろ、情報法を含む法律を「統治の道具」として利用するという発想が中国では顕著である。これはあくまでも1つの例であるが、中国法からの示唆を得ることは必ずしも容易ではない。
もっとも、例えば日本でもアルゴリズムが大きな不利益を与えているとして、昨年の食べログ判決(東京地判令和4年6月16日LEX/DB25593696)で評点アルゴリズムが違法とされたり、労働関係でもアルゴリズムによる人事評価が恣意的だとして東京労働委員会で争われている。このような中、中国ではアルゴリズムによる価格の吊り上げが行われ、特に二回目以降の「常連客」に対しては高い価格で売り付けられる(ビッグデータによる常連客殺し)といった現象が既に問題となり、個人情報保護法や独禁法で様々な対策が講じられている(前掲『中国デジタル戦略と法』筆者執筆部分参照)。このように、日中で類似した現象が発生し、場合によっては中国の方が先に対策を講じているという状況は、中国法の示唆を上手に得ることで、日本における情報法や政策についてより良い選択肢を得ることができるということを示している。
筆者としては、今後とも日中比較法研究、とりわけ、情報法における比較研究を実施することで、日本における法解釈や立法論に関して有意義な示唆を得られるよう努力していくつもりである。
 

 
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