第4回 サイバネティックアバターに関するムーンショット研究

「メタバース」という言葉は既に少し手垢がついてしまったが、サイバネティックアバターという言葉はまだ聞いたことがない読者の方も多いのではないか。サイバネティック・アバターは、身代わりとしてのロボット3D映像等を示すアバターに加えて、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張するICT技術やロボット技術を含む概念である。要するに、メタバースと異なり、アバターの話にフォーカスするという意味で(その結果として、例えばweb3やブロックチェーンの話が少なくとも直接的には関係してこないという意味で)射程が狭い部分があるものの、仮想世界のアバターにとどまらず、ロボットのような現実世界の物理的な分身を含み、また、AR・VR・XRのような拡張技術も含む点で射程が広い部分もある(新保史生「サイバネティック・アバターの存在証明 —ロボット・ AI・サイバーフィジカル社会に向けたアバター法の幕開け-」人工知能36巻5号570頁参照)。
ムーンショット型研究開発プロジェクト ムーンショット目標1「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」では、2022年に「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」のPMとして慶應義塾大学の新保教授を選任した。筆者もその下で慶應義塾大学特任准教授として研究を進めることになった。このプロジェクトでは、サイバネティックアバターの倫理、法律及び社会課題(ELSI)について、サイバネティックアバターが安心して使える基盤を構築し、望む人は誰もが身体的・認知・知覚能力を拡張して生活することができる社会を実現する上で重要な法的課題を研究する。
例えば、サイバネティックアバターの一例たるVtuberへの名誉毀損の問題は、既に社会問題化しており、なりすましに関するプライバシー、肖像権、アイデンティティ権の問題、そして技術移転・模倣等の知財の問題等もある。加えて、ロボット法(新保教授と筆者らの共訳としてウゴ・パガロ著『ロボット法』(勁草書房、2018年)参照)の問題も絡んでくる。更に、AR・MR・XRといった、現実空間と仮想空間(VR)の間のグラデーションに関する問題も発生する。
これらの問題群は一見すると相互に関連性が低い、いわばバラバラの問題の寄せ集めのように見えるかもしれない。しかし、サイバネティックアバターの法律問題の根底には、現実世界と仮想世界の間で主体や客体のアイデンティティ(例えば、アバターと利用者とのアイデンティティ、現実の土地・建物とバー チャルな土地・建物とのアイデンティティ)をいかなる場合にどこまで認めるべきなのかという問題を見いだすことができる(成原慧「メタバースのアーキテクチャと法」Nextcom2022年52号27頁 といった議論もある。このような議論を踏まえ、まさに「サイバネティックアバター法」という法領域の成立の可否も含め、今後引き続き研究を進めて行きたい。
なお、NTTグループの研究所である株式会社情報通信総合研究所の発行する月刊誌「InfoCom T&S World Trend Report」に12回に渡ってサイバネティックアバター法に関する連載をさせて頂くことになり、2023年4月27日に第一回が「「サイバネティック・アバターの法律問題」 連載1回-サイバネティックアバターをめぐる法律問題の鳥瞰(上) 〜人格権を中心に〜」として公刊された。連載は「インフォコムニューズレター」にも掲載されるので、ご期待頂きたい(本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものである。)。
 

 
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