第2回 行政のAI化実現にあたっての法的課題
「行政におけるAI・ロボットの利用に関する法的考察」情報ネットワーク・ローレビューや「都市行政とAI・ロボット活用」『都市行政の最先端ー法学と政治学からの展望』等の研究を踏まえ、2023年3月3日に、総務省 行政制度に関する勉強会において「行政のAI化実現にあたっての法的課題」というテーマで講演をさせて頂いた。リーガルテックやAI等のテクノロジーが広く使われる時代においては「テクノロジーに対する規制」をどのように設計するか、という問題と同時に、「いかにテクノロジーを利用して行政サービスを実施するか」という問題も重要な課題となる。
ここで、個人情報の保護やプライバシーは重要な問題であり、例えば、機械学習のための行政の保有する個人情報の利用や、それによって作成された学習済みモデルの横展開の制限等が論じられている。また、プライバシーの側面では、どこまでが行政サービスとして期待される「見守り」で、どこからがプライバシー侵害となる不当な監視かという問題がある。
加えて、AIの透明性の問題は、特に行政処分を行う際における理由付記(行政手続法8条1項、14条1項等参照)等、法律上一定の説明が求められることとの関係で問題となる。この点については、理由付記の趣旨に遡り、現代においてその趣旨を実現する説明をするための方策を考えることが有用であろう。まだあまり議論が深まっていないものの、ChatGPT(第1回参照)がまるで人間のような回答を行うことができるものの、息を吐くようにもっともらしい「嘘」をつくことから示されるように、チャットボット等のAIを行政が用いる結果として、当該AIが客観的には誤った情報を市民に提示し、市民がこれを信頼した場合の信頼保護の問題も重要である。
更に、行政がAIを利用して国民に損害を与えた場合については、国家賠償法が問題となる。ここで、ロボットに人格を認めると公務員に関する同法1条の責任が問題となり、人格を認めないと公の営造物に関する同法2条の責任が問題となるという見解もあるが、ロボットに人格を認めなくてもAI・ロボットを「利用する」という公務員の選択や利用開始後の運用に関する公務員の管理監督等をとらえ、同法1条の責任を問題とすることができるだろう。
最後に行政がAIとどう付き合うべきかが問題となるが、AIは危険だから使わない、ということではなく、基本的には行政の効率化のためのツールとして、公務員を「支援」するものとしてAIを利用することが望ましいだろう。但し、行政側がAIについて何も知らないのでは危ういところ、各公務員における最低限のリテラシーと、各自治体における専門性確保が重要となるだろう。
以上
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