第16回 ブレインテック時代と法
本年5月の第3回コラムで「イーロンマスク氏の「Neuralink」等で注目されるブレインテック・Internet of Brainsと法」として、脳信号情報を利用した様々な研究と、それを踏まえてニューロロー(NeuroLaw)と言われる法分野が立ち上がりつつあること等を概観した。
その後半年を経て、第3回コラムで言及した法学セミナー連載は未だに継続中であるが、加えて筆者が共著した「脳神経情報と個人情報保護・プライバシー」という論文が情報ネットワーク・ローレビュー 22巻(2023年)67頁において公刊された。
同論文の要旨は以下のとおりである。
ブレインテックと呼ばれる脳神経情報を利用した技術の進展に伴い、脳神経法学と呼ばれる法分野が注目を集めている。本稿は、プライバシーと個人情報保護法の領域において脳神経情報がどのように取り扱われるべきかについて検討する。具体的には、入力型、出力型及び介在型の3類型の事例を用いて、個人情報保護法と民事法上の情報プライバシーの観点から分析する。
ブレインテックという場合にまず思いつく法的な問題は、「様々なセンシティブなデータが取得され、AI等で処理されるのであればそのプライバシーへの影響はどうか、そのデータは個人情報保護法の観点からどのように処理されるべきか」というものであろう。この論文はまさにこの問題意識を入力型、出力型及び介在型という、ブレインテックの3つの類型に応じて論じたものである。
特に重要と考えるのが、ブレインテックのプライバシーへの影響が時代によって異なるということである。つまり、現代は、まあまあ読み取れるようになっている(https://doi.org/10.1101/2022.11.18.517004 参照)ことから、参考情報としては確かに面白いが、それはあくまでも参考であって、正確に解読しているというよりはむしろ、「推測」に過ぎないし、大いに間違える。そうすると、ブレインテックの読みとった不正確な情報がまるで自分の本心や本質であるかのようにして流布等されるリスクというのが重要である(なお、いわゆる「宴のあと」事件の私事性、つまり「私生活上の事柄又は私生活上の事柄らしく受け取られる事柄」概念からするとブレインテックの不正確な情報も「私生活上の事柄らしく受け取られる事柄」に該当するだろう)。その上で将来的には読み取り能力が格段に上がることがあり得る。その場合には、流石に100%にならなくても、例えば99%読み取れるのであれば、人間が「言い間違い」「書き間違い」をすることを考えると言語コミュニケーションと同程度かそれ以上に正確だ、と判断できる将来はくるだろう。そうなった場合には、これまでにはなかった、質の違う究極のプライバシー事項である内心の読み取り可能性というものについて考えなければならない。
このように、ブレインテックと法の問題は興味深いので、研究をされる方が増えることを期待し
たい。
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