第32回 「ChatGPTと文学と法」

2024年7月24日に、明治学院大学の「文学と法」のゲスト講師を務めた。この授業は、いわゆる「法と文学(Law and Literature)」に関する本格的な講義として、様々な文学作品の中に立ち現れる法のあり方から、社会が法をどう見ているか等を分析するものである。例えば、ドストエフスキー、オーウェル、カフカ、太宰治等の作品が取り上げられる。
このような授業に当職がゲスト講師として講演をした理由は、決して特定の文学作品に対する造詣が深いからではない。そうではなく、ChatGPT等の生成AI時代の文学と法について学生に対して講演することが求められたのである。これまで、日本の作家を含むクリエイターとAIの関係としては、いわゆる学習段階に関する著作権法30条の4にフォーカスした議論がされてきた。しかし、そのような議論は必ずしも全面的なものではない。例えば生成段階で著作権侵害になるなら ば、生成段階の著作権侵害を理由に、「そのようなプロダクトを提供する以上は、ライセンス料を払うべき」等となるかもしれない。要するに、学習段階以外を含む広いエコシステムの中でどこにキャッシュポイントがあり、そこからどう利益分配・還元を得るかという鳥瞰的・俯瞰的な視点が必要であろう。また、法的な評価ももちろん重要ではあるものの、例えば、作家の団体と包括提携を結び、その団体所属の作家のデータを広く学習データとして利用させてもらうというような対応は、もしかすると自分たちでデータを集めるよりも労力が少なく、また、質の高いと保証されたデータが入手できるので、精度も上がり、それに対する還元を適切に行うことでwin-winの関係を構築できるかもしれない。
このような幅広い視野を持って、クリエイターとAI関係者、そしてファン(将来のクリエイター候補でもある)が、相互に利益を得られる形が模索されるべきである。このようにゲスト講義を結ばせて頂いた。
 

 
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